ほし』
高い山に囲まれたある国のはずれに
一人の炭坑夫がいました。

炭坑夫は石炭を掘りながら
時折見つけた宝石を大切に家に飾っていました。
たった一人で石炭を掘っている炭坑夫には
宝石が自分を癒してくれる友達でした。

ある日いつものように
鉱山へ向かっている途中
湖に差し掛かりました。
湖の湖面はキラキラと輝き清々しく
家に置いてある宝石を思わせました。

炭坑夫は湖畔に佇む女性を見つけました。
栗色の長い髪、陶器のようななめらかな肌
澄んだ青い瞳、うっすらと赤らんだ頬を持つ
女性に炭坑夫は一目見て恋に落ちました。

しかし、どうやら女性は泣いているようです。
炭坑夫は気になって話しかけました

−なぜ泣いているのですか?−

女性は静かに口を開きました。

−私は今にも潰れそうな貧乏な家柄の者です。
 家のために山をいくつも超えた隣の国の
 一度も会ったことのない豪族の家へ
 嫁がなければなりません。
 この国に生まれ、
 好きな人とこの国で暮らし、
 愛する人を看取り、
 この国の土に帰るものだと思ってきました。−

炭坑夫は泣きやんでくれないかと
女性に宝石を渡しました。
しかし、女性は泣きやみません。

−どんなに綺麗な宝石でも
 私のこれからの
 暗く淀んだ人生を照らしてくれません。
 お優しいお方、
 どうぞ大切な宝石をおしまい下さい。−

そういって女性は街へ帰っていきました。
その晩、炭坑夫は昔聞いた隣国の豪族の話を
思い出しました。
話によると豪族は大変な金持ちだが、強欲で非道な人だと。
そして、世界中のいろんな宝石を集めているらしいと。

次の日、炭坑夫は家に置いてある
たくさんの宝石を持って家を出ました。

炭坑夫は湖で出会った女性の家へ行き、
お願いをしました。

−これらの宝石を差し上げますので、
 どうか、お嬢様の結婚をやめていただけないでしょうか?−

女性の両親は頭を悩ませてこう言いました。

−私たちもできれば娘を手放したくないのです。
 ですが、娘をあの豪族の所に嫁がせなければ
 我が家を潰すと豪族に脅されているんです。
 私たちは貧乏でも構わないのです。
 家族と共にこの家で暮らしていければ構わないのです。
 ですが、娘は私たちを思って嫁ぐことを決めました。
 お優しい方、
 お心遣い感謝いたします。
 どうぞ、宝石をおしまい下さい。−

炭坑夫は家を出た後、険しい山々を越えて
隣国へ向かいました。
日々石炭を掘っている炭坑夫には山越えは容易でした。

炭坑夫は隣国につくやいなや、豪族の家へ向かいました。
炭坑夫は豪族の家の門を叩き言いました。

−今度、あなた様と結婚をする方の知り合いの者です。
 こちらの宝石を全て差し上げますので
 婚約を解消していただけないでしょうか?−

−ほう、素晴らしい宝石ですな。
 よろしい、婚約を解消いたしましょう。−

炭坑夫は安心して家に帰ることにしました。

数日後、炭坑夫はいつものように
石炭を掘りにいきました。
その道中、女性とその両親に出会いました。
三人とも暗い顔をしています。
炭坑夫は訳を聞きました。

−今から娘を豪族の家へ送り届けるところです。
 先日のあなたのお心遣い感謝します。
 ですが、豪族は婚約を解消してくれませんでした。−

炭坑夫は走りました。足がぼろぼろになるほどに。
隣国の豪族の家に着き、門を強く叩きました。

−先日宝石を差し上げたものです
 何故婚約が解消されてないのですか?−

−さて、なんのことかな?
 私は宝石ももらってないし、解消した覚えもない−

炭坑夫はそのまま自分の家に引き返しました。
家に帰ると、家に置いてある全ての宝石を
持って、山を登りました。

炭坑夫は宝石を空へ投げました。
何度も何度も投げました。
石炭を掘ってぼろぼろになった手で
何度も何度も投げました。
宝石は夜空に散りばめられ星になりました。

炭坑夫は願いました。
女性の心が少しでも輝くように。
少しでも明かるい笑顔を取り戻すように。

隣国では豪族が大騒ぎしていました。
空に浮かぶ宝石を取ろうとしています。
豪族はしきりに飛び上がり走りました。
上ばかり見ていたせいで、前にある崖に気付きません。


今日もいつものように
炭坑夫は石炭を堀りに行きます。
家には宝石はありません。
ですが、とびっきり綺麗に輝いている人が
待っています。

 

テーマ:児童文学・童話・絵本 - ジャンル:小説・文学

【2007/03/06 20:02】 ほし | トラックバック(0) | コメント(0) |
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